これまで海外ポスドクに関する記事をいくつか書かせて頂きましたが、今回は学振海外特別研究員(通称:海外学振)の採択率を上げるためのTIPSを紹介したいと思います。私自身、海外ポスドク2年目にありがたいことに海外学振のサポートを受けることができました。海外学振は海外で研究するにあたり、日本人が最も応募しやすく待遇の良いフェローシップだと思います。
海外ポスドクの給与事情に関しては以下の記事にまとめておりますので、ご参考までに。
海外学振のメリット
金銭面のサポートが良い
海外学振は他のフェローシップに比べて金銭的サポートが良いです。
- 地域甲 (アメリカ、イギリス、ドイツ、カナダ、フランスなど): 約620万円
- 地域乙 (オーストラリア、韓国など): 約500万円
- 地域丙 (中国など): 約450万円
またこれらの滞在費は給与ではなく出張費用として振り込まれるため所得税がかかりません。つまり手取り額になるので、通常の年収に換算すると850万円程度もらえることになります。
ただ後述にもありますが、現地での保険等のサポートは学振からは特にないので、受け入れ先が負担してくれない場合は、この滞在費の中から支出する必要があります。
また学振PDのような個人研究費の援助はありません。こちらも受け入れ先に面倒見てもらう必要があります。
もし申請者が既に日本国内の大学の助教などの常勤職員の身分を持っている場合、助教としての給料に加えて海外学振のお金がもらえます(ただこれは大学によるかもしれません)
採択率が比較的高い
また最近では採択率が20%強と、意外と高いところもポイントです。海外で研究したい人があまり多くないせいか、学振DCやPDよりも若干高いです。
特にR4年度採用はコロナの影響もあってか、応募者数が激減しており、採択率は跳ね上がるかもしれません。来年度あたりまではもしかしたら狙い目かもしれないですね。
海外在住でも申請可能
海外在住でも申請可能というのは、自分のようにポスドクとして既に海外で働いている人も応募できるということです。前の記事でも書いたように、アメリカのポスドクといえど、給料は見違えるほど高いわけではなく、アーリーステージのポスドクの手取りで620万円に到達するのはなかなか厳しいです。
何よりも自分でフェローシップを取れることは、ボスの研究費に依存しなくて良くなるので、ラボの事情で急にクビになるリスクを回避できます。
なので途中で海外学振に切り替えることができるので大変ありがたかったです。
また既にポスドクとして働いている状態で海外学振を申請をする場合には、必要書類の一つである『受け入れ先研究者の承認』という書類の準備とてもが簡単になります。また審査においても、申請者と受け入れ先の先生との関係性が既に構築されていることは、派遣期間中の研究計画が問題なく遂行されるサポート材料になるのでプラスになるはずです。
海外学振の残念な点
受け入れ先の正規研究員になれない
これは大学によって変わってくるかもしれないのですが、正規のポスドクは大学との雇用契約を結ぶので常勤職員として大学で働くことができます。すなわち諸々の大学の福利厚生を受けることが可能になります。
特にアメリカにおいて保険は非常に大事で、一般的な補償内容をカバーしてもらうために加入する保険は、日本よりもだいぶ高く金額が設定されているのですが、大学の正規雇用になると福利厚生の一環として7割くらい保険料を大学が負担してくれました。
ただ海外学振の場合、たいていVisiting researcherの身分扱いになると思います。この場合は大学との雇用契約はないため、上記のような福利厚生は受けられず、自腹で払う必要があります。
J-1ビザ用の保険で、$50/mo.くらいの安い保険はありますが、補償内容は非常に少ないので気をつけて下さい。
保険料を受け入れ先から払ってもらうことは学振側も認めてますので、事前に受け入れ先の先生に確認することをお勧めします。
研究費がない
国が違うので学振から研究費を受け入れ先の大学に直接振り込むことが難しいのは承知してますが、個人研究費がないことは地味にストレスです。基本的に受け入れ先の先生に面倒を見てもらうことになります。
2年間で帰国する人にとってはあまり問題ないかもしれませんが、海外学振を足掛かりに海外のアカデミアポストを狙っていきたいと思っている人は、海外学振受給中に現地の研究費も貰えるフェローシップを応募していくことをお勧めします。
申請書の書き方TIPS
私が申請した2019年とはフォーマットが変更されておりますが、書く内容は共通する部分がありますので、申請時に注力した箇所を共有したいと思います。
申請書の構成は下記の通りです。
2. 派遣先における研究計画:3ページ
(1) 研究の位置付け:1ページ
(2) 研究目的・内容等 :2ページ
3. 外国で研究することの意義(派遣先機関・受入研究者の選定理由):1ページ
4. 人権の保護及び法令等の遵守への対応:1ページ
5. 研究遂行力の自己分析:2ページ
私が申請した際には研究の位置付け(これまでの研究)が2ページあり、研究遂行力の自己分析はなく、研究業績というページが設けられていました。
特に研究遂行力の自己分析は、学振DCの流れを踏襲しており、ただ業績を羅列するのではなく、業績をサポート材料としつつ自身の強みを文章として表現する必要があります。論文だけでなく受賞歴等があるとここではアピールしやすいですね。
おそらく学振として、研究業績が無限に羅列されても意味がないと判断され、アーリーステージの研究者には「研究遂行力」の記載を求めるようになったと感じます。現に科研費の研究活動スタート支援・若手研究では同様に「研究業績」のページはなく、「研究遂行力」に関する項目が設定されておりました。
なので、一昔前の学振DC・PDで議論になっていた、業績(論文数)がどのくらいあれば採択されるかという目安は見えなくなりつつあります。
それでは下記に各項目ごとに書き方TIPSを紹介できればと思います。
研究計画
これは学振DC等と書き方はあまり変わらないと思います。
「(1) 研究の位置付け:1ページ」でまずは研究背景と着想に至った経緯に関して記載します。着想に至った経緯に関しては、可能な限りこれまでの研究成果と絡めましょう。これまでの研究の延長である必要はありませんが、今までの研究成果が糧となり海外学振の研究テーマが確立されたというスタンスを演出できると強いと思います。
「 (2) 研究目的・内容等」も多くの学振系予算の書き方と同様で、目的・方法・内容や研究の特色・独創的な点を明示する必要があります。異なる点としては海外機関での研究になるので、共同研究になる場合は、申請者の担当箇所を明確にしなければなりません。2年間という限られた期間になるので、年次計画は詳細に、そして派遣先のどのような施設・設備等を使う予定なのかを具体的に記載できると、海外派遣の必要性・妥当性がアピールできます。
外国で研究することの意義
こちらは海外学振特有の記載項目になるかと思います。
①申請者のこれまでの研究と受け入れ先の研究との関連性と②国内外の他研究機関と比較して今回の派遣先が良い理由を記述する必要があります。
自分は①に2/3ページ、②に1/3ページを使いました。
また①の構成として、
- 今後の研究でどういう技術を身につける必要があるのか
- 受け入れ先の研究者はどんな人か(専門分野・受賞歴等を記載)
- どうやって知り合ったか
- 現在の準備状況はどうか
ということに注力して記述しました。
②に関しては、派遣先の大学自体の魅力(研究設備・ファカルティーの充足度合い、産学連携の緊密性など)や受入研究者の研究者間・大学間ネットワークの強みも記述し、ただ研究を遂行できる環境というだけでなく、今後の研究者としてのキャリア形成において有用な人的ネットワーク拡充の機会にもなるというアピールしました。
研究遂行力の自己分析
こちらは私が申請時にはなかった項目ですが、他の予算申請時に書いた経験をもとにTIPSを書きたいと思います。
「研究に関する自身の強み」に関しては、今まで携わってきた研究プロジェクトのサマリーを記載しつつ、自身の貢献した箇所がどこにあるのかを明示し、成果物(論文、特許、受賞等)を織り交ぜることが求められていると思います。
自分の場合、「どういう軸を持って研究を行なってきたか」→「業績のまとめ(これまでに計〇〇本の筆頭論文、代表的な受賞歴の紹介)」→「プロジェクトAのサマリー・代表業績」→「プロジェクトBのサマリー・代表業績」という構成を採ってきました。
「今後研究者として更なる発展とために必要と考えている要素」は技術面と精神面の双方から記載できると良いかと思います。
技術面には、今後の展開したい研究テーマにおいて不足している技術・知見は何か、精神面には、今後研究者として成長する上で不足している経験は何か、そしてそれらは派遣先で充足できるのかどうかを記載した方が良いかと思います。
そしてこれは海外学振に限らないことですが、書いた申請書は色々な人に見てもらいコメントもらったり、過去の採択者の申請書を成功例として見て、良いと思う箇所を真似ていくことが大事だと思います。
ぜひ恥ずかしいという思いを抑えて、色々なインプットを受け入れて申請書を洗練化していきましょう!
自分の方でも申請書の添削・相談や過去の申請書の公開は行ってますので、ご入用の際にはまずは下記よりご相談下さい!
また海外学振執筆の際に参考になるサイト・書籍もご紹介しますね〜
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