科研費・研究活動スタート支援の採択に向けて

研究TIPS

先日ありがたいことに科研費・研究活動スタート支援(令和3-4)の内定を頂きました。自分は海外ポスドクから日本の研究機関に移ってきたため、昨年度の科研費に応募できず、4月に現所属に着任後、研究活動スタート支援(以下、研スタ)に応募しました。研スタに関してはまだ歴史が浅いためか情報が少なく、科研費.comにも公開されている申請書は1件しかございませんでした。一応これまで自分は学振DC2、海外学振、卓越研究員、その他民間助成金に採択された経験もありますので、それらと比較して研スタを執筆する上で気をつけた幾つかのTIPSを紹介させて頂きます。これから研スタに応募する人たちの参考に少しでもなれば幸いです。

学振DCの書き方に関しては過去にいくつか記事にさせてもらっているのでよかったらご覧ください。

応募資格・採択率に関して

研スタに応募できる人は下記のどちらかの条件を満たしている必要があります。

A)文部科学省及び日本学術振興会が令和XX年9月(昨年度)に公募を行った研究種目の応募締切日の翌日以降に科学研究費助成事業の応募資格を得たため、当該研究種目に応募できなかった者
B)令和XX年度(昨年度)に産前産後の休暇又は育児休業を取得していたため、文部科学省及び日本学術振興会が令和XX年9月に公募を行った研究種目に応募できなかった者

つまり、
・博士を取ってポスドクや助教にストレートでなった人
・民間企業・海外ポスドクなどに所属していて日本の大学・研究所に移ってきた人
・産休や育休明けの人
などが応募資格があります。
ちなみに科研費・若手研究の応募資格は「学位取得後8年未満の研究者」なので年齢で制限している一方、研スタは年齢での制限はありません。なので応募者は若手ではない人も含まれます。

これらを踏まえて、2020年度の採択率をみてみますと、研スタの採択率は38.2%です。一方、若手研究は40.1%で若干高いです(年齢制限の影響?)。ただ科研費の中では高い採択率ですので、ちゃんと準備すれば通ると思われます。

また計上可能な予算(直接経費)は最大150万円/年で期間は最大2年です。大型装置は買えませんが、身の回りのセットアップのお小遣いとしては十分かと思います。ただ150万円で申請しても必ずしも150万円きません。ちなみに私は150万円×2年で申請して120万円×2年でした。自分の分野周りを見ていると大体120万円前後ですね。

学振DCや若手研究との違い

研スタの申請書の構成は、学振DCや若手研究とは少し異なります。
【学振DCの場合】
・現在までの研究状況:1.5ページ
・これからの研究計画:3.5ページ
 (1) 研究背景:0.5ページ
 (2) 研究目的・内容:0.5ページ
 (3) 研究の特色・独創的な点:0.5ページ
 (4) 年次計画:1ページ
 (5) 人権の保護及び法令等の遵守への対応:0.5ページ
・研究遂行能力:1ページ
・研究者を志望する動機、目指す研究者像、アピールポイント等:1ページ
合計:7ページ

【若手研究の場合】
・研究目的・方法:4ページ
 (1) 本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」
 (2) 本研究の目的および学術的独自性と創造性
 (3) 本研究の着想に至った経緯や、関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ
 (4) 本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか
 (5) 本研究の目的を達成するための準備状況
・応募者の研究遂行能力及び研究環境:2ページ
 (1) これまでの研究活動
 (2) 研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究 資料等を含む)
※いずれも分量配分は自由
・人権の保護及び法令等の遵守への対応:1ページ
合計:7ページ

【研スタの場合】
・研究目的・方法:2ページ
 (1) 本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」
 (2) 本研究の目的および学術的独自性と創造性
 (3) 本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか
本研究の着想に至った経緯など:1ページ
 (1) 本研究の着想に至った経緯と準備状況
 (2) 関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ
応募者の研究遂行能力及び研究環境:2ページ
 (1) これまでの研究活動
 (2) 研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む)
・人権の保護及び法令等の遵守への対応:1ページ
合計:6ページ

上記の3つを比較すると研スタは1ページほど書く分量が少ないです。細かく見ていくと研究目的・方法+着想に至った経緯(これまでの研究状況)に割けるページ数が3ページと少ないです(学振DCは5ページ、若手研究は4ページ)。
書く分量が少なくなるということは載せることのできる情報量が少なくなるので、一層分かりやすい申請書に仕上げないといけません。ただ応募時期的にあまり予備実験等に割ける時間がないので人によっては3ページでも多いと感じるかもしれません。

書き方TIPS

上述したように研スタの場合、書けるスペースはそこまでありません。そこでどれくらいの配分で書けばいいか、私の事例を紹介したいと思います。

・研究目的、研究方法
(0) 概要:1/3ページ
(1) 本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」:1/3ページ
(2) 本研究の目的および学術的独自性と創造性:1/3ページ
(3) 本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか:1ページ(図含む)
・本研究の着想に至った経緯など
(1) 本研究の着想に至った経緯と準備状況:0.5ページ(図含む)
(2) 関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ:0.5ページ
応募者の研究遂行能力及び研究環境
(1) これまでの研究活動:1.75ページ
(2) 研究環境:0.25ページ

また書く上で留意した点としては、以下の通りです。

研究課題の明瞭化:背景を可能な限り削ぎ落として、研スタで取り組みたい研究課題が何なのか明瞭になるような要素のみで構成されるように工夫しました。社会的背景を1センテンス(2行)、学術的背景を1センテンス(3行)、研究課題の説明を3センテンス(8行)という構成です。背景に関しては、論理展開が成立する最低限の文章に留め、多くを研究課題の説明に割きました。

研究の全体像を掴む図:スペースが限られるので研究目的・方法に載せる図は全体像を掴むことのできる図を1つだけ用意しました。さらに年次計画の表を載せるスペースはないので、この図の中に1年目・2年目にやる研究内容はどこに該当するかを本文と対応付けしました。

予備実験・準備状況の図:おそらく研スタは新しい環境での新しいテーマなので多くの人は予備実験の結果等を載せるのは難しく、こういうことを現在検討してますと文言で説明せざるを得ないと思います。ただ、ここでどんな形でも良いので既に準備を進めてますということが伝わる図を載せることをお勧めします(工学系に限りますが)。自分は組み立て中の実験装置の途中経過の写真を載せました。おそらく「本当に準備進めてるのね」という印象は与えることはできるので他の人と差別化できると思います。

業績リストを載せない:学振DCの場合、業績を羅列するページがありますが、研スタの場合、書式自由の「これまでの研究活動」の欄にこれまでの業績をまとめる必要があります。この時、限られたスペースでこれでもかというくらい業績を羅列するのはスマートじゃないと思います。「これまでに計〇本の論文誌に採択されている」という一文に済まして、あとはこれまで携わってきた研究の概要をまとめるスペースに当てた方が有効に使えます(もちろん重要な業績は文章内でハイライト)。こうすることで「本研究の着想に至った経緯」を書く中で、「詳細は『これまでの研究活動』を参照」と書くことができるのでスペースの有効活用ができるようになります。

もしもっと詳しく話を聞きたい方は下記のリンクをご覧頂けますと幸いです。

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また科研費申請が初めてという方には、科研費に関して体系的にまとまったこちらの本も一読されると良いかもしれません。

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以上、これから研究活動スタート支援に応募する人の役に少しでも立てれば幸いです。

コメント

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